働けなくなったら収入はどうなる? 勤務医が就業不能保険に入らない理由を、障害年金で試算した
2026年9月25日

📌 この記事でわかること
- ✅ 病院に届く所得補償保険の案内を、ぼくがどう読んだか
- ✅ 働けなくなったときのお金は「3段階」でつながっていること
- ✅ 障害年金は実際いくらもらえるのか(2026年度の金額で試算)
- ✅ 不足額は、生命保険と同じ式で計算できること
- ✅ 研修医や開業医は、どう考えればいいか
勤務先の病院には、ときどき保険の案内が直接届く。そのなかに、団体割引で入れる所得補償保険の案内がある。
読んでみると、医師の給料をまかなえるだけの保障を確保しておかないと、生活が立ち行かなくなる、という趣旨のことが書いてあった。
先に結論を書いておく。ぼくは入っていない。案内を読んで、計算して、不要と判断した。
理由を一言でいえば、守るべきなのは給料ではなく、基礎生活費だからだ。この記事はその計算の記録である。
チワゴ
先生、わたしも就業不能保険の広告をよく見かけます。働けなくなったら収入がゼロになるって書いてあって、少し怖くなりました。
どくたろう
ゼロにはならないよ。給与をもらって働いている人には、働けなくなったときに収入をつなぐ仕組みが、何段階も用意されているんだ。
🧭 所得補償保険と就業不能保険の違い
似た名前の保険が2つあるので、先に整理しておく。
| 所得補償保険 | 就業不能保険 | |
|---|---|---|
| 主な販売元 | 損害保険会社 | 生命保険会社 |
| 支払われる期間 | 1〜2年程度の短期が多い | 60歳・65歳までなど長期 |
| よくある入り方 | 勤務先や団体経由の団体保険 | 個人で加入 |
どちらも「病気やけがで働けないあいだ、毎月お金が出る」保険だ。病院に届く案内は、前者の団体保険であることが多い。
🪜 働けなくなったときのお金は、3段階でつながる
保険を考える前に、公的な制度と職場の制度で何が出るのかを並べてみる。ここでは共済組合の一般的な制度を例にする。
| 段階 | 期間の目安 | 出るお金 |
|---|---|---|
| ① 病気休暇・休職 | 最初の数か月〜 | 給与(全額または一部) |
| ② 傷病手当金 | 支給開始から通算1年6か月 | 給与のおよそ3分の2(附加金が上乗せされる職場もある) |
| ③ 障害年金 | 初診日から1年6か月後に請求できる | 等級に応じた年金(非課税) |
②も③も、区切りは「1年6か月」だ。給与が止まれば傷病手当金が出て、長引けば障害年金に移る。制度同士が、大きな隙間を空けずにつながっている。なお、同じ病気で傷病手当金と障害厚生年金が重なる期間は、傷病手当金のほうが調整される。
チワゴ
給料が止まっても、次の制度が待っているんですね。
どくたろう
ただし①の病気休暇や附加金は、勤務先ごとの制度なんだ。医局人事で異動すれば、次の職場にあるとは限らない。だからぼくは、ここを判断の土台にはしていないよ。
高額療養費の記事でも書いたとおり、勤務先の上乗せは「あったら助かるが、なくても困らない」位置に置いている。判断の土台は、どこの職場でも使える②と③、そして手元の現金だ。
🧮 障害年金は、いくらもらえるのか
③の障害年金を試算してみる。2026年度の金額で、配偶者と子ども2人の世帯、平均標準報酬額を70万円と仮定した。障害厚生年金は、加入期間が300か月に満たなくても300か月とみなして計算されるので、在職年数が短くても金額が極端に小さくならない。
| 等級 | 年額 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 1級 | 約323万円 | 約27万円 |
| 2級 | 約273万円 | 約23万円 |
| 3級 | 約115万円 | 約10万円 |
1・2級は、障害基礎年金(2級847,300円、1級はその1.25倍)+子の加算(2人で487,600円)+配偶者の加給年金(243,800円)+報酬比例部分(1級は1.25倍)の合計。子の加算は子どもが18歳になった年度末まで、配偶者の加給年金は配偶者が65歳未満で収入要件を満たす場合に限られる。報酬比例部分は再評価率を考慮しない概算。3級は報酬比例部分のみで、家族の加算はない。
障害年金は非課税なので、給料の手取りとそのまま比べられる。
チワゴ
月23万円……。お医者さんのお給料と比べると、ずいぶん少ないですよね?
どくたろう
給料と比べれば少ないよ。でも、比べる相手が違うんだ。
📊 比べる相手は、給料ではなく基礎生活費
案内にあった「医師の給料をまかなう」という考え方で計算すると、必要な保障額は大きくなり、保険料も高くなる。
でも、働けなくなったときに守らなければいけないのは、今の給料の水準ではない。家賃、食費、光熱費、子どもの教育費。家族の生活そのもの、つまり基礎生活費だ。
この計算には、生命保険を解約した記事と同じ式が使える。
① 基礎生活費
② 障害年金
③ 資産運用から得られる収入
④ 配偶者の収入
①−②−③−④=毎月の不足分
生命保険に入っていたころ、この式で出た不足は月10万円で、そのぶんを収入保障保険で埋めていた。資産が育ち、妻がパートに出るようになって、不足はなくなった。
働けなくなった場合も、考え方は同じだ。ただし死亡と違って、本人の生活費も療養費も残る。仮に基礎生活費を月40万円とすると、障害年金2級との差は月17万円ほどになる。ぼくの家計では、この差は妻のパート収入でおおむね埋まる。足りない月があっても、配当と資産でまかなえる。保険で埋めるべき穴は、残らなかった。
チワゴ
高い保険が必要に見えたのは、守るものを大きく見積もっていたからなんですね。
どくたろう
そういうこと。基礎生活費がいくらかを知っていれば、必要な額はずっと小さくなるんだ。
💴 つなぎ目を埋めるのは、生活防衛資金
3段階の制度があっても、つなぎ目には穴がある。障害年金は請求してから決定まで数か月かかるし、給与の3分の2では家計が赤字になる月もある。
見落としやすいのが住民税だ。住民税は前年の所得で決まるので、休職した1年目は、収入が減っているのに働いていたころの住民税が届く。
この穴を埋めるのが、基礎生活費の6か月分を置いている生活防衛資金だ。利上げの記事で書いたとおり、このお金は動かさず、すぐ引き出せる場所に置いている。医療費に備えた約50万円は、医療保険に入らない条件として、これとは別枠で確保している。
なお、障害等級1・2級に該当すると、iDeCoも60歳を待たずに「障害給付金」として受け取れる。これも非課税だ。
🩺 等級に届かないときは、医師免許の別の使い方
正直に書いておくべきケースがある。障害等級が3級だったり、等級に該当しなかったりするが、臨床の現場には戻れない、という場合だ。3級では家族の加算がなく、年金は大きく減る。
ぼくはこのケースを、医師免許の別の使い方で対応すると決めている。健診、産業医、書類の仕事。臨床の最前線でなくても、医師免許を使って働く方法はある。
チワゴ
資格そのものが、保険の役割をしているんですね。
🙋 研修医と開業医は、どう考えるか
ぼくが不要と判断したのは、ぼくの条件がそろっていたからだ。条件が違えば、答えも変わる。
| 検討したほうがいい | なくても対応できる |
|---|---|
| 個人開業・フリーランスで、傷病手当金や障害厚生年金がない | 勤務医で、傷病手当金と障害厚生年金がある |
| 扶養家族がいて、生活防衛資金がまだ貯まっていない | 基礎生活費の数か月分がある |
| 配偶者に収入がなく、資産も少ない | 配偶者の収入や資産収入で不足を埋められる |
| 基礎生活費を把握していない | 基礎生活費がいくらか知っている |
個人で開業すると、国民健康保険と国民年金に移る。国民健康保険には原則として傷病手当金がなく(医師国保は組合ごとに異なる)、障害年金も基礎年金だけになる。3段階のうち2つが薄くなるので、勤務医とは前提が違う。
では、貯金がまだ少ない研修医はどうか。
扶養する家族がいなければ、生命保険は要らない。亡くなっても、生活に困る人がいないからだ。
働けなくなったときの備えも、同じ式で考えられる。独身の研修医を仮定して試算すると、障害年金2級は障害基礎年金(847,300円)と報酬比例部分(平均標準報酬額35万円として約58万円)で、年約142万円、月にして約12万円になる。家族の加算はないが、守るべき基礎生活費も自分ひとりぶんだ。
生活水準を上げすぎなければ、この範囲で暮らせる計算になる。研修医のうちに身の丈に合った家計をつくっておくことが、そのまま保険の代わりになる。
チワゴ
生活費を上げないことが、保険になるんですか。
どくたろう
そうなんだ。保険が必要になるのは、扶養する家族ができて、資産がまだ育っていない時期だよ。保険の役割は「資産がない時期の穴埋め」だと思っている。
✅ 保険の前に、基礎生活費を知る
案内を読んでから結論を出すまでに、特別なことはしていない。家計簿で基礎生活費を確認し、公的な制度で何が出るかを並べただけだ。
どくたろう
保険に入るかどうかを考える前に、まず基礎生活費を知ることだね。それがわかれば、何にどれだけ備えればいいかが見えてくるから。
📋 この記事のまとめ
- ✅ 守るべきなのは給料ではなく、基礎生活費
- ✅ 勤務医の収入は、病気休暇→傷病手当金→障害年金の3段階でつながる。勤務先の上乗せは土台にしない
- ✅ 障害年金2級は、今回の試算で月約23万円・非課税。不足額は生命保険と同じ式で計算できる
- ✅ つなぎ目の穴は生活防衛資金で埋める
- ✅ 扶養家族のいない研修医は、生活水準を上げすぎないことが保険の代わりになる
⚠️ 免責事項
この記事は著者個人の経験と考え方にもとづくもので、特定の保険への加入・解約を勧めるものではありません。障害年金の金額は2026年度(令和8年度)の公表額にもとづく概算で、実際の年金額は加入期間や報酬、障害の状態によって異なります。病気休暇・附加金などの制度は勤務先・保険者ごとに異なります。詳しくは日本年金機構、加入している健康保険・共済組合の公式情報をご確認ください。