🐾
勤務医のお金と安心ノート
お金があるから医療に専念できる
← 記事一覧に戻る
家計管理

研修医の「NISA貧乏」——枠は毎年戻ってくるが、研修の2年間は戻ってこない

2026年8月22日

研修医の「NISA貧乏」——枠は毎年戻ってくるが、研修の2年間は戻ってこない

📌 この記事でわかること

  • ✅ ぼくが研修医だったころ、NISAという制度はまだ存在しなかったこと
  • ✅ ぼくが投資を始めたのは年収800万円弱になってからで、しかも月5万円だったこと
  • ✅ 研修医の給与には大きな幅があり、それでも「つみたて投資枠の満額」はどの水準でも重いこと
  • ✅ 自己投資の2年分を投資に回した場合、30年後にいくらになるか
  • ✅ 売却しても非課税枠が戻るのは翌年以降だということ

「研修医のうちから、つみたて投資枠は満額埋めている」という話を聞くことがある。

すごいな、と思う。ぼくにはできなかった。というより、ぼくの研修医時代には、そもそもNISAという制度がなかった。

だからこの記事は、「ぼくはNISAより自己投資を選んだ」という武勇伝ではない。選ばなかったのではなく、選べなかっただけだ。

そのうえで、いま数字を並べてみると、見えてくるものがあった。

🕰️ ぼくが研修医だったころ、NISAはなかった

金融庁の資料によれば、一般NISAが始まったのは2014年1月だ。ジュニアNISAが2016年4月、つみたてNISAが2018年1月。そして現行の新NISAが2024年1月から始まっている。

ぼくの初期研修は、それよりも前だ。当時、非課税で投資できる枠は手元になかった。

さらに言えば、当時は低コストのインデックスファンドも今ほど揃っていなかった。「オルカンを毎月積み立てる」という、今なら誰でも思いつく選択肢が、そもそも存在していなかった。

チワゴ

チワゴ

えっ、じゃあ先生は研修医のとき、投資してなかったんですか?

どくたろう

どくたろう

していない。制度もなかったし、良い商品もなかった。あのころは「銀行に置いておく」以外の選択肢が、ぼくには見えていなかった。

これは弱点ではなく、この記事の前提だ。ぼくは、今の研修医が持っているカードを持っていなかった。だから「ぼくはやらなかった、だから君もやるな」とは言えない。

🧭 先に白状する。ぼくは遠回りをした

ぼくが実際に投資を始めたのは、卒後3年目ごろだ。奨学金360万円を返し終わったあとだった。

そして最初に買ったのは、インデックスファンドではない。個別株だった。

今から始めるなら、ぼくはインデックスから入る。個別株から始めたのは遠回りだったと思っている。ただ、当時は優良なインデックスファンドが今ほどなく、やむを得なかった面もある。

その後も遠回りは続いた。オルカンに落ち着いたあと、一度は米国の高配当ETF(VYM)に切り替えている。そのVYMは今も保有したままだ。ただし積立の新規購入は、オルカンに戻した。

チワゴ

チワゴ

けっこう迷ってますね……。

どくたろう

どくたろう

迷った。ただ、あの遠回りで大怪我をしなかった理由がひとつだけある。金額が小さかったからだ。

月5万円だった。もしあのとき月20万円を個別株に入れていたら、遠回りのコストはまったく違うものになっていた。

正解を選べたから助かったのではない。小さく始めていたから、間違えても致命傷にならなかった。これがぼくの実感だ。

📊 研修医の給与には、大きな幅がある

ここで数字を出す前に、はっきりさせておきたいことがある。

ぼくの初期研修医時代の給与は、額面で月30万円ほどだった。手取りで20数万円だ。

これは「研修医の標準」ではない。

幅が大きいからだ。厚労省の調査(2011年のもので、やや古いデータである点は注意が必要だ)では、1年次の平均年収は大学病院で約307万円、市中病院で約451万円。2年次になると市中病院は約502万円で、大学病院との差はさらに開く。1年次の年収の範囲は、180万円から950万円程度と報告されている。

ぼくの360万円は、全体の平均は下回る。ただし大学病院の平均よりは高い。つまりぼくの数字は、この幅の中のひとつでしかない。

チワゴ

チワゴ

下と上で5倍以上も違うんですね。

どくたろう

どくたろう

違う。だから「研修医はこうだ」とひとくくりにはできない。ぼくの数字を基準にしてほしくない、というのが正直なところだ。

そのうえで、各水準の手取りに対して、つみたて投資枠の満額(年120万円=月10万円)がどれくらいの重さになるかを計算してみた。独身・扶養なしを前提とした概算である。

年収(額面)手取り/月月10万円の比率
307万円(大学病院1年次 平均)約20.4万円約49%
360万円(ぼくはここ)約23.8万円約42%
451万円(市中病院1年次 平均)約29.5万円約34%
502万円(市中病院2年次 平均)約32.5万円約31%

ここで注目したいのは、いちばん給与が高い水準でも、比率が3割を下回らないことだ。

給与が高い病院を選べば満額が楽になる、という話ではない。幅の上端にいても、つみたて投資枠の満額は手取りの3割を持っていく。

なお、つみたて投資枠と成長投資枠を合わせた年間投資枠は360万円だ。この金額は2026年度の税制改正でも変わっていない。

💴 ぼくが月5万円で止めた、5つの理由

卒後3年目、ぼくの年収は800万円弱になっていた。初期研修医のころから倍以上だ。

概算すると、手取りは年約585万円、月にして約48.7万円になる。この時点でのぼくの積立額は月5万円。手取りの約10%だ。

余力はあったはずだ。それでも増やさなかった理由が、5つある。

① 挑戦は少額から、を基本にしている
新しいことを始めるとき、いきなり大きく張らない。これは投資に限らず、ぼくの基本方針だ。

② 奨学金を、ぎりぎりで返し終えた直後だった
360万円を3年で返した。手元に余裕があったから返せたのではない。削って返した。返済が終わった時点で、貯金はほとんど残っていなかった。

③ 生活防衛資金がなかった
一般的に、会社員の生活防衛資金は生活費の3〜6か月分が目安とされる。ぼくの当時の生活費で計算すると、100万円前後は必要だった。それがなかった。

④ 転勤が増える時期で、引っ越し費用が見えていた
医局人事で動く時期に入っていた。引っ越しは、決まってから準備するものではない。決まる前から現金で持っておくものだ。

⑤ 転勤先によっては、車が必要になる可能性があった
公共交通機関で通える場所とは限らない。もし車が必要になれば、まとまった現金が要る。

チワゴ

チワゴ

投資をがまんしたというより、先に必要なお金が見えていたんですね。

どくたろう

どくたろう

そうだ。あの時期は、自己投資は削らず、現金を厚めにする時期だった。月5万円は、我慢した金額ではなく、残った金額だ。

ここが大事なところだと思っている。ぼくは「投資を控えめにしよう」と決めたのではない。先に必要なものを置いていったら、残りが5万円だった。順番が先で、金額は結果だった。

⚠️ 「NISA貧乏」とは何か

「NISA貧乏」という言葉がある。ぼくはこれを、こう定義したい。

本当に必要なことに、お金を使えない(使わない)状態のこと。

損することではない。むしろ、運用がうまくいっていても起こりうる。

たとえば、こういうときだ。

  • 気になる学会があるのに、参加費と旅費を考えて申し込まない
  • 読みたい専門書があるのに、次の積立日を考えて買わない
  • 必要な引っ越しなのに、資金がないので条件を落とす

どれも、資産としては増えているかもしれない。だが、そのときにしかできないことを見送っている。

制度面でも、これを後押ししてしまう仕組みがある。NISAは売却すれば非課税枠が復活するが、復活するのは翌年以降だ。売ってすぐ買い直すこと(スイッチング)はできない。枠をすぐ復活させる案は金融庁が要望していたが、2026年度の税制改正では見送られている。

チワゴ

チワゴ

じゃあ、急にお金が必要になって売ったら、その年の枠は戻ってこないんですね。

どくたろう

どくたろう

戻らない。だから「いざとなれば売ればいい」は、思っているほど気軽ではない。売りたくないから使わない、という状態になりやすい。

枠を埋めることが目的になると、順番が逆転する。埋めるために、必要なものを後回しにする。ぼくが避けたかったのは、これだった。

🧮 自己投資の2年分を、もし投資に回していたら

ここは正直に計算する。ぼくに都合の悪い数字も出る。

ぼくは初期研修の2年間、学会・講習会・教科書などに年間で数十万円を使っていた。ここは削らなかった。

では、それを削って全額を積み立てていたら、どうなっていたか。年利7%、初期研修の2年間だけ積み立てて、あとは追加せず放置したという前提で計算した(金額は概算)。

自己投資 年額2年後30年後
年30万円約64万円約427万円
年40万円約86万円約569万円
年50万円約107万円約711万円

小さくない。2年間だけの積立が、30年後には数百万円になる。

チワゴ

チワゴ

けっこう大きいですね……。削ったほうがよかったんじゃ?

どくたろう

どくたろう

大きい。ただ、この数字は横に別のものを並べないと意味がわからない。

ぼくの場合、初期研修医のときの年収は約360万円、後期研修を終えたあとは800万円弱になった。差は年間で約440万円だ。

先ほどの30年後の金額を、この年収差と比べてみる。

  • 年30万円分 → 約427万円 = 年収差の約1.0年分
  • 年40万円分 → 約569万円 = 年収差の約1.3年分
  • 年50万円分 → 約711万円 = 年収差の約1.6年分

30年かけて得られる金額が、年収の段差の1〜1.6年分にしかならない。

ただし、ここは慎重に書きたい。この年収差は、ぼくが自己投資をしたから生まれたものではない。研修を終えて次の段階に進んだという、制度上の段差が大きい。自己投資の効果だけを取り出して「利回り」に換算することは、ぼくにはできない。

言えるのはここまでだ。2年分の自己投資を投資に回して30年待った金額は、キャリアが一段進むことで生まれる差の、1年半分程度でしかない。

チワゴ

チワゴ

先に進むことのほうが、金額としては大きいんですね。

どくたろう

どくたろう

ぼくの場合はそうだった。だから研修中の2年間、自己投資を削る判断はしなかったと思う。

まとめ

  • ✅ ぼくの研修医時代にNISAはなかった。今の研修医は、ぼくが持っていなかったカードを持っている
  • ✅ 少額でも積み立てを始めるのは、良いことだと思う
  • ✅ ただしぼくの順番は、自己投資が先だった。今も、そこは変えないと思う
  • ✅ ぼくが投資を始めたのは年収800万円弱になってから。金額は手取りの約1割の月5万円だった
  • ✅ 遠回りをしても大怪我をしなかったのは、正解を選べたからではなく、小さく始めていたから
  • ✅ 「NISA貧乏」は、損することではない。本当に必要なことにお金を使えなくなることだ

枠は毎年やってくる。使い切れなくても、翌年また360万円分の枠が与えられる。

だが、研修中の2年間は一度きりだ。あのとき読むべきだった本、行くべきだった学会は、あとから枠のように戻ってこない。

ぼくが言えるのは、それくらいだ。

📖 あわせて読みたい

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧めるものではありません。制度の内容は2026年8月時点の公表資料に基づきます。研修医の年収は厚生労働省「臨床病院における研修医の処遇」(2011年)によるもので、現在の水準を示す最新データではありません。手取り額は独身・扶養なしを前提とした概算であり、実際の金額は個人の状況により異なります。運用の年利7%は過去の長期平均を参考にした試算で、将来の成果を保証するものではありません。